呼吸の外側
Apr 27, 2025
瞑想で呼吸は切っても切れない大切なツールですが、この呼吸へのアプローチには内向きと外向きがあります。ちょっと意味が分かりずらいかもしれませんね。しかし、この内と外の2つの視点は、瞑想実践において非常に重要なヒントになります。今回は、瞑想中の呼吸のアプローチについて、少し細かく紹介してみましょう。
このブログでもよく書きますが、私が長年実践している基本瞑想は、シャマタ・ヴィパシャナ瞑想と呼ばれる技法です。「シャマタ(Samatha)」と「ヴィパッサナー(Vipassana)」の2つの要素をもつ瞑想ですが、それぞれの呼吸に対するアプローチは、大きく異なります。
シャマタとヴィパシャナの呼吸の違い
まず、シャマタとヴィパシャナの呼吸に対するアプローチの違いをまとめてみましょう。
シャマタ(Samatha)
シャマタでは、呼吸や身体、あるいは他のシンプルな対象に注意を向け続け、それをはっきりと把握し続けることで心を安定させる手法を用います。
- 呼吸を見失わないように意識を保ち、散漫さに流されそうになったら何度でも呼吸に戻る
- 「自分がマインドフルかどうか」をしっかりチェックしながら座る
- その結果として「いまここ」にフォーカスしている、落ち着いた心の状態が得られやすい
シャマタが得意とするのは、こうした明確な認識を途切れさせないことで得られる安定感です。呼吸の対象に根を下ろし、つねに内側にしっかりと軸足を置くことで、心にぶれが少なくなるのが大きな特徴です。あくまで「自分の中」で起こっている体験を明確に捉える姿勢です。
ヴィパシャナ(Vipassana)
一方、ヴィパシャナの場合、呼吸や身体が“ここだけ”にあるのではなく、広い世界・空間の中に広がっているという視点です。ヴィパシャナでは、この「外側」に意識を開き、呼吸の背後にある大きな空間の広がりや、呼吸が世界の一部である事実を感じ取っていきます。
- 呼吸を厳密にコントロールするのではなく、ある程度手放す
- 呼吸は身体だけで完結しているのではなく、外の大気や空間へ広げていく
- その結果として、「未知の広がり」や「新鮮な空気を取り入れるような解放感」を得やすい
ヴィパシャナの呼吸をとおして自分の内側だけでなく、世界との一体感を同時に感じることを促します。シャマタで培った安定を土台にしながら、ヴィパシャナの広々とした受容の姿勢へと一歩踏み出すことで、内側だけではなく外側とも結びついている自分をよりクリアに体感できるようになります。
呼吸に対するアウェアネスと手放し
このように呼吸を観察する点ではシャマタもヴィパッサナーも同じですが、シャマタは「呼吸にしっかりフォーカスし続ける」のに対し、ヴィパッサナーは「広がりをもった気づき」を育てていきます。シャマタでは自分がマインドフルでいられるかどうかを細かくチェックしますが、ヴィパシャナではそれを “四六時中” 気にする必要がありません。むしろ、呼吸に対する態度をゆるやかに開き、体の内側だけでなく外の大気をも感じることが目的です。
外側へ意識を向けるときの戸惑いと新鮮さ
吐く息とともに「自分も外へ出ていく」ように瞑想を行うと、遠くの車の音や鳥の鳴き声、あるいは部屋の空気の流れなどに、自然と注意が向くことがあります。これは呼吸を“身体の内側”だけで捉えるのではなく、“大気や空間”とのつながりとしてとらえ始めることで生まれる感覚です。
一方で、新鮮な刺激を「もっと知りたい」と追いかけすぎると、再び意識が内側へと閉じてしまう場合もあります。瞑想中に得られた新しい感覚や音は、「そこにある」ということを軽く認めて、そのまま見送る くらいの姿勢がちょうどよいでしょう。
さらに、呼吸とともに意識が空間へ広がるとき、「パッ」と開けるような感覚を怖いと感じることもあります。未知の広がりを前にした自然な反応と言えますので、無理に怖さを払拭しようとせず、一瞬でも感じた広さを味わってみる ことから始めてみるのがおすすめです。
日常生活へ応用するポイント
- 姿勢を整える
背筋を伸ばし、肩の力を抜くと、思考や感情に巻き込まれにくくなります。デスクワークの合間などにも意識してみましょう。 - 最初はシャマタ的に集中する
呼吸に意識を向け、息が乱れていないか、途中で考え事をしていないかをこまめにチェックすることで、安定感を培います。 - 「吐く息」とともに外へ広がる
息を吐くときに空間へ広がって溶けていくイメージで行う。このとき、「自分」の境界をゆるめると、部屋全体や外の音など、周囲への感受性が高まりやすくなります。 - 怖さや不安は自然な反応
新しい感覚に戸惑うのは当たり前。無理に押し込めようとせず、「そういうものだな」と認めてあげると、受け止めやすくなります。 - 大気や空間を意識する
呼吸は身体の中だけでなく、外気とつながっています。「ここで私だけが呼吸している」のではなく、「世界の中で呼吸が起こっている」と想像してみましょう。
内と外を繋げる
シャマタもヴィパシャナもどちらの要素も等分に大切であり、組み合わせてこそ瞑想の世界がいっそう豊かになります。最初から「外へ出る」感覚を完璧に得ようとする必要はありません。呼吸へフォーカスしたあと、ごく短い瞬間でも空間全体へ意識を開けられたら、それで十分な一歩です。
新しい感覚に出会うと、怖さや不安、あるいは楽しさや好奇心が同時に湧いてくるかもしれません。それらもすべて含めて、「今ここにいる自分」を大きな空間の中で寛ぐという姿勢でぜひ続けてみてください。日常生活でも、ふと背筋を伸ばして深呼吸をするだけで、広がりのある世界を思い出せるようになるでしょう。